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科学コミュニケーター 中西貴之
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■今週の午後おや日記で東北大学の「すばる望遠鏡」での観測結果について触れてみました。
>> 午後おや日記2004年10月9日分

Chapter-48 宇宙旅行がまた一歩近づいた
2004年10月9日

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 2004年6月21日、民間企業の宇宙船が初めて宇宙空間に到達しました。これまで宇宙開発は1961年に旧ソ連のボストーク1号が人類初の有人宇宙飛行に成功して以来、国家の手によって行われるのが常でしたので、今回民間企業が宇宙飛行に成功したという快挙は今後の宇宙観光時代の幕開けといってもよい出来事といえます。

 今回民間初の宇宙飛行に成功した宇宙船は米国の航空機開発会社スケールド・コンポジッツ社が開発した「スペースシップワン」で、地球の高度100キロメートルで無重力を3分間ほど体験したそうです。高度100キロメートルというのは航空に関する国際記録を認定する組織である国際航空連盟が定義した高さでこの高度では大気の密度は地表の100万分の一しかありませんので、大気圏の外であるといえます。

 この飛行は実は、「アンサリXプライズ」という民間宇宙飛行を世界で最初に成功させた人や企業に贈られる予定の賞を獲得するための試験飛行でした。アンサリXプライズというのはアメリカの宇宙研究学者や起業家の個人によって設立されたもので、賞金は1000万ドルです。1000万ドルを獲得するための条件は3人の人間を乗せ、高度100キロメートルの宇宙空間へ同じ機体で2週間以内に2回成功させるというもので機体の開発や打ち上げをすべて民間の力で行うことが条件です。

 アメリカのスペースシャトルはこれまでの宇宙開発の歴史の中で数少ない機体を再利用する宇宙船のひとつですが、一機ごとの打ち上げサイクルは数ヶ月で一回の打ち上げごとに機体を分解して整備を行います。今回求められている条件である同じ機体で2週間以内に2回という打ち上げサイクルは安価に宇宙旅行を実現させる条件を意味しているとも言えます。それはこのアンサリXプライズが複数の乗客を乗せて継続的に運航できる宇宙船を開発するその動機付けになることを意図したものだからです。

 さて、その1回目の飛行が先月、2004年9月29日に行われました。エンジン噴射直後に一時的にきりもみ状態に陥りましたが無事立て直して見事1回目の成功を収めました。2回目の飛行は日本時間で10月5日に行われ、2回目は何のトラブルもなく飛行に成功し1000万ドルを獲得しました。

 アンサリXプライズにはアメリカ、カナダ、ロシアなどの7カ国から26チームがエントリしていましたが、実際に宇宙飛行に挑戦したのはこのスケールド・コンポジッツ社のみでした。

 この技術の商業ベースでの利用についてもすでに目処が立っており、英ヴァージン・アトランティック航空などを持つヴァージン・グループは、この技術を買い取り、世界初の宇宙観光会社をつくると発表しています。宇宙船を5機つくり、2007年にも商用宇宙飛行を実現させるという計画なのだそうです。

 スペースシップワンの機体は軽くて飛行効率に優れた炭素繊維複合材料によって作られています。この機体はホワイトナイトと名付けられた専用のジェット機に抱きかかえられて離陸し、高度15キロメートルで切り離されロケットに点火します。ロケットエンジンによって最高速度マッハ2.9、ほぼ秒速1キロメートルで垂直に上昇し、この時の加重力は5Gです。

 参考までにくりらじスタジオの近くにありますテーマパークスペースワールドのジェットコースターでは、タイタンが最高加重力3.7G、ヴィーナス(右写真)が5.2Gとなっています。燃料は高度100キロメートル手前付近でなくなり、その後は弾道軌道を描いて宇宙空間に3分程度滞在し大気圏に再突入します。再突入時の加重力は2.9Gで特殊な構造の羽を折りたたんで高度17キロまでブレーキをかけ、その後は羽を再度展開して滑空し着陸します。

 スペースシップワンの開発コストは推定で約2000万ドル・約22億円でNASAの半日分の予算に相当し、スペースシャトルの開発費2兆円と比べるとわずか1000分の1です。その理由は設計からすべて自社の社員で行い、特に機体の設計は社長の手によるものだからです。また、風洞実験を省略してコンピューターシミュレーションを多用するなど極限的なコスト削減が行われています。

 現在の宇宙観光ビジネスはロシアのソユーズを使ったものがすでに提供されており、費用は一人22億円程度です。スペースシップワンによる宇宙飛行は当面一人2000万円程度になると予想されていますが、数年後には200万円程度にまで下げられる予定となっています。

アンサリXプライズ  
スケールド・コンポジッツ社