インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
アシスタント BJ

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本も書いてます



 

プリオンの遺伝子を発現しない牛を開発(キリンビール)
 ヒト抗体医薬品産生に用いる牛の開発の過程で、狂牛病原因物質プリオンの遺伝子を破壊した牛の開発に成功したそうです。プリオンはタンパク質ですので牛の遺伝子にプリオンの構造を記述した部分が含まれていて、そこが機能してプリオンができあがります。今回の成果は、プリオンの「設計図」を破壊することに成功したという画期的な研究です。

NASAはハッブル宇宙望遠鏡をあきらめていない(NASA)
 以前、この番組でハッブル宇宙望遠鏡(HST)は放棄される可能性があるとお伝えしましたが、どうやらNASAではロボットを使ったメインテナンスによるHSTの運用継続を検討しているようです。ただし、本来の目的は運用の終わったHSTを安全に地球に落下させるためのロケットの取り付けとのことですが、可能性があれば運用の延長も試みるとのことです。ちなみに、延命措置がとられなかった場合は2007年にはHSTは大気圏で燃え尽きることになります。

財団法人日本環境協会の子供向け相談サービス  
 デジタルカメラで撮影した植物や動物の画像を電子メールに添付して相談するとその動植物の名前や生態などを教えてくれるサービスが大人気とか。ただし、対象は高校生以下です。

>>「Mowton(放送終了)」はこちら 


Chapter-36
 今週の人工衛星「はやぶさ」 [聴くMP3をDL

Chapter-35
 揺れない地震は要注意 [聴くMP3をDL

Chapter-34
 卵子だけでマウスが誕生した [聴くMP3をDL

Chapter-33
 食感に脳はどう反応するのか [聴くMP3をDL

Chapter-32
 ニート彗星、リニア彗星、ブラッドフィールド彗星 [聴くMP3をDL

Chapter-31
 シリーズ学会発表(1) [聴くMP3をDL

Chapter-30
 吉田光由とその著作『塵劫記』 [聴くMP3をDL

Chapter-29
 花粉症は克服できるのか [聴くMP3をDL

Chapter-28
 質量はどこから来るのか [聴くMP3をDL

Chapter-27
 バイオハザードは身近なところにある [聴くMP3をDL

Chapter-26
 御木本幸吉 [聴くMP3をDL

Chapter-25
 サイエンスニュースフラッシュ [聴くMP3をDL

Chapter-24
 多重人格に関する最新の研究成果 [聴くMP3をDL

Chapter-23
 放射線を用いた植物の品種改良 [聴くMP3をDL

Chapter-22
 火星探査車「スピリット」のテクノロジー [聴くMP3をDL

Chapter-21
 酒酔いのメカニズム [聴くMP3をDL

Chapter-20

 サラマンダーはパートナーの浮気を許さない [聴くMP3をDL

Chapter-19
 結核治療薬が高所恐怖症治療に有効 [聴くMP3をDL

Chapter-18
 新聞ニュース斜め読み [聴くMP3をDL

Chapter-17
 数を数える仕組みは男女で異なる [聴くMP3をDL

Chapter-16
 ニッポニアニッポン・トキ [聴くMP3をDL

Chapter-15
 数を数える仕組みは男女で異なる [聴くMP3をDL

Chapter-13
 あくびは親切な人にうつる [聴くMP3をDL

Chapter-12
 試験のストレスでニキビは悪化する [聴くMP3をDL

Chapter-11
 朝型人間・夜型人間は遺伝子で決まる [聴くMP3をDL] 

Chapter-10
 ウィルヘルム・レントゲンがX線を発見 [聴くMP3をDL] 

Chapter-36
2004年6月5日

シリーズ・今週の人工衛星「はやぶさ」

今週の放送を聴く | ダウンロードする

 はやぶさは2003年5月9日に鹿児島県内之浦から打ち上げられました。目的地は小惑星イトカワで到着予定は2005年です。到着後、はやぶさはこの小惑星の観測を行うと同時に惑星の岩石を採取し地球に持ち帰るサンプルリターンに挑戦することになっています。
 さて、はやぶさに関する最新の話題ですが、先月、2004年5月末にはやぶさはスイングバイに成功したというプレスリリースが2004年5月24日にJAXA宇宙航空研究開発機構から出されました。スイングバイというのは惑星の重力を使って衛星を加速させる方法で、惑星間を飛行する探査機の運航には必須の技術です。日本は過去に火星探査機のぞみでもトライしているのですが、このときは軌道のずれが大きく成功とは言い難い物でしたが、こんかいの「はやぶさ」は目標ルートに対する誤差わずか1kmでアメリカのジェット推進研究所が賞賛するほどの見事なスイングバイを披露しました。現時点で装置などにも一切支障なく飛行しています。

 ここで小惑星について復習しておきたいのですが、小惑星は最大の物で直径1000km程度で、太陽系においてすでに数十万個も発見されています。その多くは火星と木星の間にありますがいくつかは地球の公転軌道に近いところにあり、今回のはやぶさのターゲットであるイトカワも地球の軌道に比較的近い位置を公転している小惑星で、直径は500m程度の非常に小さな小惑星です。

 では、小惑星を研究することによって何がわかるかというと、それは小惑星の成り立ちまでさかのぼって話をしなければなりません。私たちの住む地球を含めて太陽系の惑星ができた経過については様々な説がありますが、現時点でもっとも有力な説は原始太陽系において太陽の周りを取り巻いていたガスの雲が、わずかな密度のムラが原因で次第に凝集し、微惑星と呼ぶごく小さな惑星が出来ます。これらの微惑星同士がさらに衝突することによって次第に成長し地球などの惑星になります。この点において、小惑星はこの過程の途中で成長が止まった物と言うことができます。つまり小惑星は地球ができてくる途中の情報をそのままとどめている可能性があるので地球がどのようにして生まれたかを知るためには小惑星を調べることによって多くの情報が得られるという訳なのです。

 次に、はやぶさがイトカワに到着してからのミッションと、どのようにしてイトカワからサンプリングを行うかについて紹介します。
 はやぶさのイトカワ到着は2005年6月頃の予定ですが、イトカワについたはやぶさはイトカワから6km離れた空間に静止します。はやぶさには撮像カメラ、レーザー測定器、近赤外分光器、X線分光器が搭載されており、まずは6kmの距離からリモートセンシングを行います。
 はやぶさの底面には1メートルの長さの筒がついています。はやぶさはイトカワの地表1メートルまで降下して筒が地表に接触すると金属の玉がイトカワに向かって打ち出されます。玉の衝撃によって舞い上がったイトカワ表面の岩石がこの筒の中に吸い込まれて保存されます。筒が地表に接触した直後にはやぶさはエンジンを噴射して一旦イトカワから離れ、再度降下をして同様のサンプリングを行います。これを2回から3回繰り返してサンプルを地球帰還用のカプセルに収納します。サンプリングが終了したはやぶさはイトカワを離れ、打ち上げの4年後となる2007年6月に地球に戻ってきます。先ほど資料をサンプリングしたカプセルのみが切り離され地球へ降下し、オーストラリアの砂漠に着陸することになっています。

 このサンプルリターンは世界で初めての挑戦となるものですが、はやぶさにはもう一つ世界で初めての画期的な技術が投入されその性能の実証も今回のミッションの大きな目的の一つです。それはイオンエンジンによる宇宙空間の航行です。イオンエンジンはキセノンという気体をイオン化し、電子レンジに似た仕組みで電気的に噴射して加速するもので、開発に15年を要したミューテンと呼ばれるエンジンです。これまで、宇宙航行技術は化学燃料を燃やすロケットエンジンしか実用化されていませんでした。
 宇宙で前に進むには質量をジェット噴射しその反動を利用します。この前に進む力を推進力といいますが、推進力は放出された質量と放出時の速度のかけ算で表されます。また、宇宙は吸い込む物がありませんので、地球のジェットエンジンのように空気を吸い込んでそれを圧縮して噴射することはできませんから、噴射する物をすべてあらかじめ持っておかなければなりません。これが、宇宙空間で大きな推進力を得るさいのネックとなります。どのくらいのネックになるかというと、化学燃料を燃やして推進力とするスペースシャトルの場合、運搬できる荷物の量は、数十トン、わずか大型トラック数台分にもかかわらずあのように、本体よりも巨大な燃料タンクを装備しているという点からも理解できると思います。エンジンユニット部分だけに着目するとスペースシャトルの噴射速度は秒速3km程度ですが、イオンエンジンはその10倍の30kmの噴射速度を発揮できます。先ほど推進力は噴射速度と噴射質量のかけ算だと申しましたが、ということは、イオンエンジンはスペースシャトルの10分の1の質量噴射で同じ推進力を得ることができると言うことになります。

 この点がどのようにすごいかというと、実は惑星探査機には基本的に加速能力を持っていません。つまり、ボイジャーも、パイオニアもNASAやEUで打ち上げられた多くの火星探査機も地球からロケットで打ち出された後は惰性で慣性飛行をしているのです。ところがはやぶさは日本が開発したイオンエンジンを搭載していますので自分で加速し、軌道を変えながら航行することが出来ます。つまり、はやぶさは宇宙船に最も近い探査機ということができます。宇宙空間で自力で加速ができると言うことは、打ち上げに巨大なロケットを必要としないというメリットもあります。従来の探査機は目的地に到着するに必要な加速を地上からのロケットの発射速度でまかなわなければなりません。地球の引力は強力ですのでわずか数トンの探査機を打ち上げるにも巨大なロケットが必要だったのですが、イオンエンジンがあればとりあえず宇宙空間に探査機を出してやればあとは自分で加速して飛行することができます。実際、はやぶさを打ち上げたのは日本の中型ロケットでイオンエンジンの開発なくしてではとても地球外探査機を打ち上げる能力など持っていないといえる機種でした。この技術はやがてくる探査機によるより深い宇宙の探査や火星への有人飛行などにおいては欠くことのできない技術で、その技術を日本が世界で初めて実用化したという点は誇りに思っていいと思います。

 また、はやぶさは自律航行をする能力を持っています。自律航行とは地球からの指令・操縦や、コンピューターに入力された手順に従うことなく、搭載されたカメラやレーザーのデータを自ら判断して航行するものです。わずか500メートルしかない小惑星の上空6kmにぴたりと静止し、そこから降下とサンプリングを繰り返すには地上からの指令では臨機応変に対応できず、イトカワの表面の様子は良く理解されていませんので、あらかじめ手順をコンピューターに入力しておくことも不可能です。そこで、はやぶさ自信が自分の判断ですべてのミッションをこなす必要があるということなのです。

 過去のこの番組でアメリカの火星探査機を紹介した際に、探査機は意外と古い技術で作られていて、それは先進性よりも確実性を重んじるからだと述べましたが、日本の「はやぶさ」は世界の最先端技術で作られて、「はやぶさ」を成功させることは宇宙開発の新たな一歩を日本が踏み出すことだと言うこともできます。

参考資料
JAXA Webサイト
日本分析科学会 Webサイト