インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
アシスタント BJ

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Chapter-42 [聴くMP3をDL
 色を感じるメカニズムと色彩感覚

Chapter-41 [聴くMP3をDL
 文法を処理する中枢

Chapter-40
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 カーボンナノチューブで作った世界最小の温度計

Chapter-39 [聴くMP3をDL
 水素エネルギーの限界と二酸化炭素地中貯留プロジェクト

Chapter-38 [聴くMP3をDL
 量子コンピュータ実現への道筋が見えてきた

Chapter-37 [聴くMP3をDL
 多くの脊椎動物に共通する謎の遺伝子

Chapter-36 [聴くMP3をDL
 今週の人工衛星「はやぶさ」

Chapter-35
 揺れない地震は要注意 [聴くMP3をDL

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Chapter-33
 食感に脳はどう反応するのか [聴くMP3をDL

Chapter-32
 ニート彗星、リニア彗星、ブラッドフィールド彗星 [聴くMP3をDL

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Chapter-30
 吉田光由とその著作『塵劫記』 [聴くMP3をDL

Chapter-29
 花粉症は克服できるのか [聴くMP3をDL

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Chapter-26
 御木本幸吉 [聴くMP3をDL

Chapter-25
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Chapter-24
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 酒酔いのメカニズム [聴くMP3をDL

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Chapter-19
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Chapter-18
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Chapter-17
 数を数える仕組みは男女で異なる [聴くMP3をDL

Chapter-16
 ニッポニアニッポン・トキ [聴くMP3をDL

Chapter-15
 数を数える仕組みは男女で異なる [聴くMP3をDL

Chapter-13
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Chapter-12
 試験のストレスでニキビは悪化する [聴くMP3をDL

Chapter-11
 朝型人間・夜型人間は遺伝子で決まる [聴くMP3をDL] 

Chapter-10
 ウィルヘルム・レントゲンがX線を発見 [聴くMP3をDL] 

Chapter-9
 Kids:夏休みの自由研究はブラインシュリンプはいかが? [聴くMP3をDL] 

Chapter-8
 クローン人間は作れない [聴くMP3をDL] 

Chapter-7 男性の脇の下のにおいで女性はリラックスする? [聴くMP3をDL]  

Chapter-6
 早川徳次・日本の地下鉄の祖 [聴くMP3をDL] 

Chapter-5
 Kids:夏服は何故白い? [聴くMP3をDL] 

Chapter-4
 早期老化遺伝子が見つかった [聴くMP3をDL] 

Chapter-3
 サイエンスニュースフラッシュ [聴くMP3をDL] 

Chapter-2
 高柳健次郎・全電子式テレビの開発 [聴くMP3をDL] 

Chapter-1
宇宙の起源へ挑む [聴くMP3をDL] 

Chapter-42
2004年7月31日

色を感じるメカニズムと色彩感覚

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色を認識するメカニズム

 人間の目に入ってきた光は角膜、瞳孔、水晶体、ガラス体を屈折しながら通過して網膜に到達し、人間は網膜に到達した光信号を解析して視覚を得ています。網膜は細胞で出来た厚さ120ミクロンの膜でここに存在する桿体細胞と錘体細胞が光の受容体です。片方の眼球の中に1億2千万個ほどある桿体細胞は1光子(フォトン)にさえ反応する超高感度な細胞でその役目は明暗の認識です。錐体細胞は片方の眼球の中に500万個ほど存在し色を認識しますが、感度は高く無く、反応するには100フォトンが必要です。



角膜
瞳孔
水晶体
ガラス体

網膜(桿体細胞・錐体細胞)

桿体細胞・・・明暗を認識 (高感度)
錐体細胞・・・色を認識 (低感度)

 人間の目が色を認識する仕組みはこの錐体細胞が光の三原色に対応する三種類存在し、それぞれが受け持つ光の色に反応し、それを脳が統合することがその仕組みです。錐体細胞はその漢字の呼び名の通り細胞の先端に円錐形の構造があり、ここにヨドプシンと呼ばれる物質があり、ヨドプシンはオプシンと呼ばれるタンパク質とビタミンAであるレチナールが結合して出来ています。

ヨドプシン = オプシン + レチナール

 タンパク質であるオプシンはそのアミノ酸配列の違いによって3種類存在し、それらが437nmの青色、533nmの緑色、564nmの赤色に反応する仕組みになっています。このRGBをそれぞれ認識する細胞からの情報が集まっていろとして認識されます。反応する波長は動物によって異なっていて、たとえばある種の鳥は人間のRGBの他に362nmに反応する細胞も持っていて紫外線に近い光も認識できるようです。

オプシン → 3種類
赤 (R) に反応するオプシン
緑 (G) に反応するオプシン
青 (B) に反応するオプシン

RGB は光の三原色

3種類のオプシンの反応ですべての色を表現できる

 以上の色を認識するメカニズムから判断すると、たとえばリンゴは赤色である564nmを反射するために赤く見えると考えることも出来ますが、人間が色を認識するメカニズムは複雑で「564nm の光だからそれは赤である」と認識するわけではないことがわかっています。

たとえば・・・・
 晴れた日の屋外、夕焼け、蛍光灯のともった室内のように光の種類が変わると、物体から眼に入る光の波長成分は大きく変化します。それでも、リンゴは赤く見えます。

 厳密に錐体細胞に届く光の波長と人間が認識する色が対応しているのなら、リンゴにあたる光の波長が変われば反射する光の波長も変わりますので、リンゴは常に赤く見えるとは限らないことになります。ところが、リンゴはいつも赤く見えますのことを「色の恒常性」と呼びますが、この「色の恒常性」は、眼に入射する光の波長そのものには「色彩」情報が欠けていることを示しています。

色の恒常性 = 照明の色が変わってもリンゴはいつも赤く見える

 では、錐体細胞が感じる波長と意識として認識する「色」を関連づけているのは何かというともちろんそれは大脳によるデータ処理です。仕組みはよくわかっていませんが、環境の光の波長によって様々に変わるリンゴからの反射光の波長を何らかの処理をして変換することによって意識として「赤」と脳が感じさせているようです。このことを「色彩感覚」といいます。

色彩感覚 = 目から入ってくる様々な波長の光に何らかの処理をしてリンゴをいつも赤く見せる能力

 このような、「色彩感覚」言ってみれば脳が色を作り出す機能は生まれながら備わっていると考えられてきましたが、実際の神経回路網の構造と働きは未だ明らかになっていませんでした。ところが、独立行政法人 産業技術総合研究所の研究グループはこれまで色を認識する機能は生まれながらに存在しているという常識は誤りであることを以下に紹介する実験によって明らかにしました。

 生まれて間もないサルを、1年間、単色光の照明だけで飼育しました。これは私たちがオレンジ色の照明のトンネルの中にはいると色を正確に認識できなくなるのと同じ環境を意味しています。これは色を認識できない、言い換えると色を知らない環境に生まれたときから1年間おいたことになります。というのも、自然の光や普通の照明光は、様々な波長の光を出していますので、錐体細胞が機能できますが、単一の波長成分しか含まない単色光のもとではすべての錐体細胞が全く同じ反応を続けますので、光の強さの濃淡しか検出できず、物体の「色」を検出することは不可能となります。

サル

生まれた直後から単色光で飼育

色のない世界で成長

1年後・・・

赤、青、緑色のカードを用意
見本として、赤に似た色、青に似た色、緑に似た色を提示

正答は・・・
赤に似た色が提示されたら赤いカードを選ぶ
青に似た色が提示されたら青いカードを選ぶ
緑に似た色が提示されたら緑のカードを選ぶ

結果

人間や正常に育ったサル・・・正答
単色光で育てたサル・・・課題に対し正しいカードを選べず、「赤に近い色」、「緑に近い色」と「青に近い色」をそれぞれ赤、緑、青に結びつけることが出来ませんでした。

別の実験

あらかじめ赤いカードと黒いカードを渡しておく

赤の見本カードが呈示されたときには、手元の赤のカードを選択し、それ以外の色の見本カードが呈示されたときには手元の黒のカードを選択するように訓練

白色光で試験を実施
 色を見せずに育てたサルも正常サルも正答

色付きフィルターにより照明光の波長成分を変化
 人間やふつうに育ったサルは太陽の下でも蛍光灯の下でもリンゴを赤いと感じるのと同じ理屈で的確に赤いカードを選ぶことが出来ましたが、色を知らずに育ったサルは周りの照明の色が変わると赤色を赤色と認識することが出来なくなりました。

 このことは色を知らずに育ったサルは大脳によるデータの変換処理が出来ずに物体から反射してくる光の波長と認識する色を直結しているためであると思われます。

 以上の研究によって、リンゴをいつも赤いと感じる「色彩感覚」は脳に元々備わる機能ではなく経験によって獲得されるものであることが明らかになりました。さらなる研究によって「色の恒常性」のメカニズムを明らかにすることが期待されます。

参考文献
独立行政法人 産業技術総合研究所 プレスリリース 2004年7月27日

水星周回無人探査機「メッセンジャー」打ち上げ
 NASA は 2004年8月に30年ぶりとなる水星探査機を打ち上げます。探査機の水星への到着は2011年3月の予定で 450度の高温に耐えながら水星の成分や磁気圏の活動を調査します。
>> メッセンジャーのオフィシャルサイト