2010年5月29日
Chapter 292 ネアンデルタール人と現生人類の関係について   

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岩波生物学辞典 第4版ではネアンデルタール人について次のように記載しています。

 ネアンデルタール人はドイツのデュッセルドルフに近いネアンデルタール渓谷の石灰岩洞窟から1856年に偶然に発見された化石人骨で、広義には今から20万年から4万年前の中期旧石器時代に、ヨーロッパから中近東、さらには中央アジアに分布した旧人類の地方型です。当初研究者らは現代人に比べて原始的特徴が多いところから、かつてヨーロッパに住んだ先史人の遺骨とみなしていました。これに対して、それらの特徴はいずれも病的または老人性の変形であるとして強く反対する意見もあったため研究は進展なく、その人骨はその後40年以上もボンの州立博物館に放置されていました。20世紀初頭に至り、病的と考えられた形態はすべて原始人類の特徴であると結論がでました。この仲間の化石人骨はヨーロッパ、中近東の各地から合計300体分以上発見されています。これらの人骨は頭蓋容量が1300〜1600mlで、頭高は低く、眼窩上隆起が強く、下顎前面は前方にいちじるしく傾斜しているのが見た目の特徴です。埋葬などかなり高い精神性を示す証拠を遺しています。

 つまり、ネアンデルタール人は、ヒトと共通の祖先から50万年前以降に分かれ、別々の進化の道を歩み、およそ3万年前に絶滅した生物ですが、私たち現代人の遺伝子の中には少なくとも1〜4%はネアンデルタール人に由来する遺伝子が含まれているらしいことを独マックスプランク進化人類学研究所などの研究チームが明らかにしました。

 クロアチアで出土した約3万8000年前のネアンデルタール人3体の骨の化石を0.4グラム使用し、その細胞核からDNAを取り出し、4年をかけてゲノムを解析した結果、ネアンデルタール人のゲノムの6割が明らかになりました。その結果わかったことは現生人類(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)の異種交配が中東地域で過去に起き、その時期は現生人類がアフリカから旅立った直後だったらしいということです。

 ネアンデルタール人については、ヒトと共存する時期があったことや、両者の交流を示唆する石器が発見されていることから、混血の可能性も指摘されていたものの、ヒトの細胞内のミトコンドリアDNAの分析などから、ヒトの祖先はアフリカで15万〜20万年前に誕生して以降、絶滅した他種と混血しないまま、ユーラシア大陸を経て全世界に広まったという「アフリカ単一起源説」が主流でした。

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今日使える科学の小ネタ

▼すばるが、最も遠い銀河団を発見

 すばる望遠鏡による近赤外線観測などにより、96億光年かなたに銀河団が発見されました。これ以前のもっとも遠い銀河団の記録は92億光年でしたので、その記録を4億光年更新することとなりました。この銀河団には、星形成を行っていない成長の止まった銀河が数多く存在することがわかりました。今回の観測はすばる望遠鏡に搭載されている近赤外線観測装置「MOIRCS」によって距離の計測が行われましたが、この装置は複数の天体の距離を同時に測定できるという、世界でも極めてまれな装置で、その観測結果から96億年前の宇宙に銀河が集まっていることが確認されたものです。
 詳しい分析の結果、96億年前という昔の銀河団にも関わらず、赤い銀河が多く存在していることが明らかになった。銀河の赤い色は、銀河が長い間星形成を行っていないことを示していますので、星の集団である銀河にとって成長が止まっていることを意味します。

▼ボイジャー2号のデータ送信システムに異常

 NASAは、2010年4月22日に探査機ボイジャー2号で観測データの送信に異常が発生した、とを発表しました。ボイジャー2号は現在、探査機の状態のみを発信するモードに切り替えられており、原因の究明を含めた復旧作業が進められています。その後、5月1日に探査機から届いたデータによると、探査機の動作は基本的に正常なものの、観測データをフォーマットするためのシステムに異常があり、地球に届くデータは読み取りが不可能な状態だということです。ボイジャー1号と2号は、史上もっとも遠い太陽系の果てに到達した人工物です。現在、ボイジャー1号が地球から169億km、ボイジャー2号が約138億kmの距離にあり、1977年の打ち上げから33年を経た今も通信を続けています。この距離は海王星までの距離の約3倍にあたり、地球とボイジャー2号の通信には片道13時間を要します。ボイジャー2号のミッションは、当初木星と土星の探査を目的に4年間の探査期間が設定されていましたが、その後ミッションが延長され、ボイジャー2号は1986年と1989年にそれぞれ天王星と海王星に接近通過しました。その観測で、海王星に大黒斑や秒速450mの風の存在を明らかにし、また、海王星の衛星トリトンには、窒素の氷でできた極冠に火山のような噴出を発見しました。


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バックナンバー
   
Chapter 291 最近の桜島について
Chapter 290 神経細胞に関する新知見2題 
Chapter 289 スプリング8  
Chapter 288 良い眠りで体をメンテナンスしましょう  
Chapter 287 腸内細菌が食生活に与える影響 
Chapter 286 宇宙帆船「イカロス」間もなく打ち上げ  
Chapter 285 人間とチンパンジーを分けた遺伝子の変異 
Chapter 284 日本の科学研究ビッグプロジェクト 
Chapter 283 すぐそこにあった水惑星 
Chapter 282 高速増殖炉「もんじゅ」とは? 
Chapter 281 宇宙の話題盛り合わせ  
Chapter 280 ウェルナー症候群とウェルナーヘリカーゼ   
Chapter 279 レアアースに頼らず生物多様性を守る日本で開発された技術  
Chapter 278 ツタンカーメンの死因
Chapter 277 最近の人工衛星の話題 
Chapter 276 1年中咲き続けるサクラの開発に成功 
Chapter 275 マイクロキメリズム 
Chapter 274 生命科学に関する最新の話題を盛り合わせ
Chapter 273 レスベラトロール  
Chapter 272 最近発見された生物  
Chapter 271 2010年はリンの貴重さに思いをはせる年にしましょう  
Chapter 270 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 後編  
Chapter 269 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 前編  
Chapter 268 臭わない病気、聞こえない病気に関する最新情報  
Chapter 267 プランクトンが住みにくくなる北極海  
Chapter 266 宇宙でがんばっている探査機たちに思いをはせる  
Chapter-265 伝統医学
Chapter-264 軌道エレベーターと宇宙太陽光発電 
Chapter-263 最近耳にしなくなったオゾンホールの現状と地球温暖化との関係
Chapter-262 金平糖のサイエンス 
Chapter-261 30分でわかるノーベル賞2009  
Chapter-260 リチウムイオン電池

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Science-Podcast.jp 制作






科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
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ナビゲーター BJ
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