子供たちに聞かせてあげたいノーベル賞

2010年11月20日
Chapter-316 祖先はアフリカ南端で生き延びた

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 現代人のDNAの研究から、その昔私たちの先祖が劇的に減った時期があることが分かっています。20万年前にはアフリカ全土に広がっていた人類の祖先は、約19万5000年前から約12万3000年前までの地球の寒冷化・乾燥化によって食糧の入手が困難になりました。その結果、多くの地域でホモ・サピエンスの集団は絶滅してしまいました。その後、わずかな地域でかろうじて生き残った集団が人口を増やし、世界に広がった結果、現在生きているすべての人がこの時に生き残ったアフリカのある特定の地域で暮らしていた小さな集団の子孫となりました。

 その特定の地域とはどこだったのかということを解明するために、当時のアフリカ南端の海岸なら年間を通して食料の調達が可能だったと推定して住居跡を探したところ、ピナクルポイント という場所にある「PP13B」と呼ばれている洞窟とその近くの遺跡で大量の遺物が見つかり、人類の祖先がどのようにして破局的な気候変動を生き延びたのかについて、仮説を組み立てることができました。

 ピナクルポイントには球根を持ち、地下にエネルギーを貯蔵する地中植物が多く存在していたようで、これらの植物は乾燥した環境に適応しているので降雨の少ない氷期にも手に入ったものと思われます。また、すぐ近くの沖合で栄養豊富で冷たいベンガラ海流と、アガラス海流の温かい海水がぶつかっているため、アフリカ南岸沿いには、様々な貝類が生息しており、貝類からタンパク質と脂肪酸を接種することができ、当時ここに住んでいたホモ・サピエンスは地球が寒冷化した時代においても食料に不自由することはなかったらしいことがわかりました。

 遺伝学や化石や考古学的記録の研究は現生人類が約5万年前に初めてアフリカを出て長期的にかなりの人数が移住したという点ではほぼ一致しています。しかし、この集団的大移動の原因となった出来事についてはまだいくつかの疑問が残っています。たとえばアフリカでホモ・サピエンスの大量絶滅が発生した氷河期の終わりにアフリカで生き残っていた集団は今回の仮説の結果発見された1つだけだったのか、あるいは幾つかの集団のうち最終的に1つの集団だけが現在生きているすべての人間の祖先となったのか、これはまだ分かっていません。こうした問題を解決するために、この氷期に祖先が暮らしていた可能性があるアフリカの他の地域を調べ直前の気候条件がどのようなものだったかをもっと細かく知る必要があります。

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科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
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