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【ヴォイニッチの科学書《有料版》番組要旨】
2012年10月06日

Chapter-413 原子ナンバー113 

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 元素には水素、ヘリウム、リチウムなどの名前がついていますが、そのほかに原子番号という固有なな番号が割り振られています。元素は中心の原子核とその周りを雲のように取り囲む電子で成り立っています。原子核はプラスの電荷を持つ陽子と、電荷を持たない中性子が集まってできています。原子番号はその原子核に存在している陽子の数と同じで、水素は原子核の陽子が1個で原子番号は1番、炭素は6番、酸素は8番などとなっています。これまで発見されているもっとも原子番号が大きな元素は116番リバモリウムです。元素には認定制度があって、原子番号1番の水素から112番のコペルニシウムまでは連続で元素と認定されていますが、次は間があいて、114番フレロビウム、最後の116番リバモリウムの計114種類が認定されています。

 かつて安価な元素から高価な金を作り出す錬金術が盛んに研究されましたが、そのような科学は現在では否定されています。ところが、加速器という装置を使うと新たな元素を合成して作り出すことができるのです。ロシアの科学者メンデレーエフが「元素周期表」を提唱したのは1869年のことでしたが、当時、自然界に存在する元素は、原子番号92番のウランまで発見されていました。一方で、93番以降の元素はすべて人工的に合成されたものなのです。元素は原子核中の陽子の数によって定義されます。かつては、プラスに思いっきりチャージしている原子核の中にさらにプラスの陽子を押し込むことなど不可能でしたが、加速器の発明と性能の向上によってムリヤリ原子核の中に陽子を組み込むことが可能になり、新たな元素が次々に作り出されているのです。

 原子番号が大きいと言うことは、原子核の中にプラスの電荷を持った陽子がぎゅうぎゅうに詰め込まれていることになって、陽子同士の反発で大きな元素は不安定な巨大な原子核を持つことになります。さらにその中に無理矢理陽子を押し込んで作り出された人工劇名元素はすべて、非常に不安定で1秒の数百分の1の時間しか存在することができません。また、実験で作り出される確率も非常に低いため、理屈ではわかっていてもそれを作り出すことは非常に困難です。

 2012年9月27日、理化学研究所は、2004年、2005年にそれぞれ1個ずつの合成に成功していた113番目の元素について、新たに3個目の113番元素(質量数278)の合成を確認したと発表しました。今回の合成成功は、データ不足のために未だ世界的に正式には認められていない113番元素の発見について、その発見が間違いないことをより確証づけるものだということなんです。

この話は2004年までさかのぼります。

 2004年9月に理化学研究所がそれまで未発見だった113番目の元素を合成したことを発表しました。このときの実験は、理研仁科加速器研究センターの重イオン線形加速器(RILAC:ライラック)を用いて原子番号30の亜鉛を光の速度の10%まで加速し、原子番号83のビスマスにぶつけ続けるというものでした。ぶつけた亜鉛の量は毎秒2兆5000億個、これを80日間ぶつけ続けました。その結果、やっと1個だけ原子番号113の原子を合成することに成功したのです。113番元素の平均寿命は1000分の2秒であることも分かりました。

 新しい元素の合成に成功しても、それがただの1回だけでは世界的には認めてもらえませんので、理化学研究所はさらに実験を続け、2005年に2個目の113番元素の合成に成功しました。また、ロシアの研究チームは113番よりも大きな115番元素がα崩壊という原子核が陽子を放出する現象を使って113番元素を作ることに成功しました。

 さらに、新しい大きな元素の合成を証明するには、原子核から陽子が転げ落ちるように崩壊の連鎖反応を起こして、すでに知られているより原子番号の小さな原子に変化することを確認することが重要です。この変化の際に、陽子がこぼれ落ちることによって発生する現象を観測するとで、もともとが陽子何個の元素だったのかを確認することができます。この点についても新たに合成された元素はα崩壊を連続で4回起こして原子番号105のドブニウムになることが確認できました。けれどこれだけでは依然としてデータが不足していて、日本が113番元素の合成に成功したことは国際的には認められていませんでした。

 周期表には112もの元素が掲載されているにもかかわらず、それらのすべては欧米によって発見されたものなのです。非欧米圏のサイエンスのリーダーシップを取る日本としてはなんとしても、非欧米圏初の元素を周期表に掲載したいところです。

 そのために日本としてはさらなる証拠を積み重ねるべく実験を続け、今回3個目の113番元素の合成に成功し、そのα崩壊の観測で113番元素に間違いないことが確認され、証拠の積み重ねに成功しました。

 3個の113番元素を合成するために、2003年9月以来、通算553日の照射日数と1.35×10の20乗個の亜鉛原子(重さにして15.8 mg)を費やしたということです。113番元素についてはロシアとアメリカの研究グループも命名権を主張しています。最終的にどこの国が発見したことになるかは「国際純正および応用化学連合」という国際的な委員会による今後の審議を待たなければなりませんが、最初に合成に成功し、その後も世界で最も多い3個の合成を行っている日本がその命名権を得ることは当然であろうと思われます。


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ダイナー・ヴォイニッチ 2013春
  2012年3月16日(土) 夜
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科学コミュニケーター 中西貴之(メール / 活動履歴
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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


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